悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

探偵たち

 「全国の少年探偵団へは速やかに連絡が渡った。」という一文が私をときめかせる。はたしてどこでみた文章だったか。
   グランドブダペストホテルという映画の中で、ホテルマンたちの秘密の連絡網によって危機脱するというようなシーンがあって、好きだ。秘密というのが大事だ。秘密結社。ホテルマンたちも全国の少年探偵団たちも秘密結社。秘密結社だから、彼らは日頃退屈そうな顔をして世を忍んでいるだろう。少年たちは無垢な振りをして。一度事件が起これば、立ち上がらずにはいられない。奇怪な事件。仲間のピンチ。暗躍する悪の組織。解決するための手段は簡単だ。全国津々浦々、この日のために世を忍んできた仲間たちに速やかに連絡するのだ。塾へ行くためのバスの中で、隣に座った仲間へ秘密の連絡は伝えられるだろう。スイミングスクールでクロールを泳ぐ彼は腕をかくときの角度でシグナルを送るだろう。家でお留守番をする彼女は、わざと飼い犬を逃し、犬の口には、ごらん何かを咥えている。電話はダメだ。もちろんメールも。買い物をしている母親を車の中で待っている彼は、ヘッドライトを勝手に操作する。茶柱の本数にも秘密は隠されている。ランドセルを背負ったままお辞儀をして中身をこぼしてしまった彼女の姿をみて微笑む大人たち。もちろんそれも合図さ。なによりも確実で速やかな全国の少年探偵団たち。世の中に存在しないと思われていた隙間を縫うようにしてあっという間に生まれるネットワーク。みんなが寝てしまった後の団地のベランダでは、秘密のライトが合図を送りあっている。駆けっこでは負けちゃう彼も音を立てずに寝室から抜け出すのは得意だった。犬の遠吠えがきこえた夜半、はたして本当に犬の声だったのかしら。みんな知らない知られちゃいけない。あくびをおさえて歩きつつ、通学路は油断しちゃいけない。朗らかな日を浴びて、灼けた柔らかい膝を曲げて伸ばす屈伸運動の勢いあまって飛び跳ねる。

 

 

([え]2-2)少年探偵団 江戸川乱歩・少年探偵2 (ポプラ文庫クラシック)

([え]2-2)少年探偵団 江戸川乱歩・少年探偵2 (ポプラ文庫クラシック)