悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

読書日記じゃない日記

陽がゆっくりと沈んでいくことに気がつかないまま、いつのまにか夜になっていた。ある瞬間を感じ取ることができない私はいつでも、思い出すことで存在しない瞬間を彩りのあるものとして偽っているのではないだろうか。

あるいは写真。外苑の歩道でピースサインをしている人はたしかに私に向かってピースをしていたはずなのに、それが過去となってしまった今、ピースサインをしている女の人の視線は宙に浮いているようだ。 写真を見ても何を考えているのかはわからないけれど、楽しそうな感じはした。いったいあの時、私はなにを考えていたのだろう。想像することは可能だし、きっと想像は当たっている。私の感情は言葉ほどにも豊かではないのだ。

その夜。きっとすべての人は私のことを忘れてしまっていた。雨に濡れた路面を車が走っていく音がした。車の音であると、車の音がしなくなったあとに気がついた。シャーという路面が乾いているときにはしない音だ。あなたがたが私を忘れるとき、私も私を上手に手放すことが出来るかもしれない。

夜が明ける前。目を覚ます。夢を見ていたことに気がついた。思い出そうとしたがまったく関係のないことを思い出す。私もまたあなたがたを忘れなければならないと不意に気づいたけどはたしてそれがいかなることであるかはわからなかった。