悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

3/13

 

仕事終わりで、立川へ行く。Sと会う。
Sは来るのが遅くなると言っていたのに、わたしより先に到着していた。
Sを待っている間に本屋でも行こうかと思っていたけど、Sはすでに着いていたので本屋に行く理由はなくなったにもかかわらずなぜかSとともに有隣堂の方へ向かい、途中で本屋へ行く理由がすでになくなっていることに気づいたのは良かったものの結局駅と有隣堂の間にあるブックオフに入って無駄な出費をする。

同じ作家でもブックオフで見かける本と見かけない本というのがある。例えば枡野浩一の本だと『ショートソング』を一番見かける。次が『淋しいのはおまえだけじゃな』。『ショートソング』は著者の本の中で一番売れたものだそうだから、納得。大岡昇平は意外と『事件』が多い。

阿部昭『短編小説礼讃』(岩波新書)のチェーホフのところを読んでいたら読みたくなってきた。〈生涯に書いた小説は約五百編(筆名によるものが四百編以上)と言われる〉らしいのでとうぜん読んでいないもののほうが多いのだけど、ここで取り上げられているようなものはみな読んでいると思う。筋を読むとなんとなく浮かぶ。全7章のこの本の第1章に〈人物の名前とか場面場面の細部とかは思い出せなくても、ああ、あの話か、とまるごと記憶によみがえる。そういうものが短編小説の魅力である、と読者の側からは定義できぞうである。読むことと同じくらい、読んだものの思い出も大切である。〉とあって、良い。

チェーホフの悲哀について著者は〈それは涙のない、乾いた悲しみ、それゆえに泣くことでも慰められない、人の心を時間をかけて噛みさいなむ悲しみである。〉という。〈時間をかけて〉という部分に惹かれる。たぶん、話の脈絡に関係はなくて、ちかごろ時間がかかるということについて考えたりするからかと思う。瞬間よりも持続することに惹かれているようだ。細く長く続けること。そのために必要なことはよく寝ることで、つまりは休息なのだ。わたしたちは疲れている。