悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

夢/厳粛な

よく晴れた寒い夜更けには「厳粛な」気持ちになる。「厳粛な」というのがどういうことなのかはまったくわからない。

青いものを見たときに青いと思うように、楽しいときに楽しいと思うように、「厳粛な」気持ちになるわけではない。「厳粛な」であってほしいということかもしれない。「厳粛な」は静けさと似ていて、かつ祈りにも似ている。しかしどちらともおなじではない。いつか、餃子の餡を皮に包んでいると初恋の人を思い出すという男の人がいたのだけど、そういうことかもしれない。深く探りを入れれば、「初恋の人」と「餃子の餡を皮に包むこと」は突拍子のない連想などではなくて、記憶の層のなかに確かな根拠があるだろう。「厳粛な」ということもきっと同じで、寒い夜更けと一直線に繋がっているのだ。

二月の夜に厚いビニールのカーテンでかこわれたポーチにいたとき、厳粛とは無関係だったのに、こういう夜が「厳粛な」夜になればいいと思った、厳粛とはいったいなんのことなのかもわからずに、以来私の寒い夜に薄荷の匂いはしない。