悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

2021-01-01から1年間の記事一覧

父と母が一緒に暮らし始めたころ

父と母が一緒に暮らし始めたころ、若い二人は駅前にできたばかりの串焼き屋へ出かけた。行きつけにしうかな、なったらいいね、なんて話しながら。ところがその串焼き屋はあまり美味しくなく、さほど行かないまま、ほどなくして潰れた。 父だったか、母だった…

雨が降っていたので暗かった

雨が降っていたので暗かった 朝、目が覚めるとあたりは暗く、まだ夜中なんじゃないかと思ったが朝だった。雨が降っていたので暗かったのだ。朝に雨が降るのは久しぶりに感じた。この時期は雨が降っていると、起きる時間でもまだ暗い。陽の光を浴びないと目覚…

クレープ屋をみつける

晴れていたので歩いていたらクレープ屋をみつけた。クレープはいつでも食べたい。生クリームとチョコだけのやつが好き。生地はあまりパリパリしてない方が好き。冷たい風に身を凝らせて薄く丸く伸ばされるクレープを眺める。両手で受けとるとそれは陽に似た…

フクロウをみた

辺鄙なところで育った。明け方になると、鳥の鳴き声で目が覚めた。持久走がある日はとても嫌でいつもより早く目が覚めてしまった。耳を澄ませても鳥の声がしない。雨が降っているからに違いない、と期待して雨戸を開けると晴れているということが何度もあっ…

2021/08/22

この話をするためにはまずその前提の誤解を解かなくてはと思っているうちに話はどんどん進んでいき、進めば進むほど誤解は絡まりあって、もはや意思の疎通など不可能ではないかと絶望していると、相手はいつのまにか満足した様子で、じゃあまかせたよなどと…

2021/04/08

朝起きるたびに疲れを感じる。この先ずっと私は疲れはてたままなのかもしれないと想像するとぎょっとしてしまい、その弾みでどうにか蒲団から抜け出す。眠りが浅いのかもしれない。寝つきも悪いような気がしないでもない。「疲れすぎて寝れない夜のために」…

2021/04/02

川本三郎『郊外の文学誌』を読んでいたらこんな文章があった。 東京は変わり続けていることが常態となった、世界でも珍しい都市である。東京に生まれた人間で、大人になってもなお生まれた家と同じ家に住んでいるという例は、きわめて少ないのではないか。東…

2021/03/22

ビルの影にはいるととたんに寒い。猫がすばやく通りぬける。誰かが非常階段を降りる音がする。物語はあちこちに身をひそめているという説もある。彼はそれを信じて細いダクトをたどって消えてしまったが、行方はいまだ知れない。私はといえば、身を縮めて日…

2021/03/16

kid frecinoとC.O.S.Aの「LOVE」が好き。帰り道にSpotifyのプレイリストから流れてきた。〈干渉と言わずに互いを理解する〉という歌詞をずっと〈感傷と言わずに互いに理解する〉だと思っていた。感傷という言葉のきめの粗さに満足せず、歩み寄ることかと思っ…

2021/02/27

風が強めに吹いて、みんなさみしいことだろう。いや、あんがいそうでもないのかも。家に帰って暖かいお湯で手を洗うと、暖かいってサイコー、全身で浸かりたい! と思うのだけど、いざお風呂に入るとなるとすごく面倒に思えてくる。床でごろごろしていると、…

2021/02/14

このところ、暖かい日も増えてきてうれしい。線路沿いでは梅が咲いていた。*Sはぜんぜん本を読まないけど読みたい人で、たびたび本を読めないと嘆いている。いったいなにをもって読めないなどと言っているのかと聞くと、文字を追いながらぜんぜん違うことを…

2021/01/24

徒歩でいける幻想 いつのまにか迷い込んでいたい。境界をこえたのはいつだったか、振り返ってもわからない、徒歩でいける幻想。飛躍はない。よたよたと俯いて歩いていたらたどり着いていた。そんな気分が良い。宮沢章夫の『サーチエンジンシステムクラッシュ…