悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

2022/02/14

昨晩雪が降った。
お昼くらいから雨が降りはじめ、ずっと雨だったけど寝る前にカーテンを開けてみると、いつの間にか雪になっていた。
朝起きるとすでに止んでいて積もるほどではなかった。道の端、車や屋根の上などにはわずかに残っていた。
すでに溶け始めているそれらが、したたり落ちて音をたてていた。その名残の音が好きだ。

会社へ行くために歩いていると電線から溶けた雪が落ちて来る。曇っていて、まだ小雨が降っているのかと思ったけど、そうではなかった。目の前で、それが落ちてくると、道路にあたって音がする。別のところでも同じように滴っているので、目の前のそれと音とがずれて感じるときがあり、繊細なふりをすれば面白がれそうだと思った。

濡れるのは嫌なので、できればその滴りには当たりたくない。
しかし歩道のない道で、通勤車の抜け道のようになってもいるので、道路の脇にのびている電線の下を歩くよりなかった。
高校生のとき、自転車で通学途中に鳥のフンが腕の上に落ちてきたことを思い出した。
止まっているときに落ちて来るならまだしも、走ってるときにこんな目に会うなんてあんまりだと落ち込んで、そのまま帰宅したのだった。
鳥のフンに比べれば、溶けた雪などなんでもないようだけど、それでも避けようとしてジグザグに歩いてみた。そんなことをしても避けれるはずはないのに、いくらかマシな気がした。
朝なので、避けれるわけないとわかっていながらもジグザグに歩いてしまうくらいに頭がぼんやりしていたのだ。朝なので、と付ける必要はあるのか。いつもではないか。

上を向いて、落ちて来るところを見ながらであれば上手に避けれるのだろうかと考えた。
しかしすぐに、不衛生な水が目に入ったら失明などするかもしれないと思い、ぞっとした。そんなことあるのだろうか。ぞっとしたら急に眼が覚めた気がした。周囲の風景から逸れ始めた思考が、突然もとに戻るような感覚。

小さい頃は雪を食べたりしていなかったか。
食べたかもしれないけど、あまり記憶にはない。かわりに、小学生の頃ころ下校途中に同級生と二人で川の水を飲んだことを思い出した。
別に綺麗な川ではない。数日して、その同級生の親から、私の発案でウチの子が汚い川の水を飲んだ、みたいな苦情が私の親の元に来た。
私が同級生と川の水を飲む数日前、私と母が川沿いを歩いていて、母が日に当たってキラキラした川面を「綺麗だね」と言ったから、私が川の水を綺麗だと思い、飲んでしまったのだと、母は私に謝ってきたのだった。