悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

小声で書く

細字のペンにはまっている。
手帳(というかメモというかノートというか)の紙面に神経質な字を書いている。
先日もsarasa nanoという0.3ミリのボールペンを買った。グレー色。
平日の昼間だというのにロフトが異様な数の中高生に埋め尽くされており、たまたま人がいない棚にあったのがサラサナノだった。何色か試してからグレーを一本買った。

グレーは見にくくて良いかもしれないと思った。
帰宅して普段使っている白いノートに書いてみると、たしかに見にくかった。
青白い昼光色の明かりに白いノートが反射して、首をひねって見る角度を変えたくなった。
会社にいるとき、ついつい仕事にぜんぜん関係ないことを手帳に書いてしまう。
見られたら嫌なので見にくいペンで書けば良いのではないかと思いついたのだ。
しばらく使っていると、そういうバカらしい動機とは違う良さもあるように感じた。

普段、手帳に使っているjuice up 0.3mmの鮮やかさの影に隠れるたグレーの文字は、静かなトーンで話しているように見えた。
同じ文字の大きさで書いているのに、控えめで奥まってみえる。
ああ、小声で書きたいことってあるよなと気がついた。
秘密にしたいこととは違う。小声で書きたい、考えたいこと。
私にたいして小声で話しかける。私は私に耳をそばだてる。その静かな時間。そうした兆しをグレーのペンを滑らすことで発見した。注視してこなかった感情が手の動きに導かれて浮かび上がる。最近の手を動かすことのたのしみのひとつ。