悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

2022/02/24

先日のこと。ふらふら池袋駅あたりから新宿駅方面に歩いていた。
池袋駅を出て、ジュンク堂の方へ向かう。そのまま明治通りを下ると『往来座』という古本屋がある。ちょっと覗いて見ようかと思ったが、閉まっていた。入りかけて、入口に「準備中」とあり、さも入りかけてなどいないフリをして道なりに戻った。
ふと、滝口悠生が学生時代に池袋駅から歩いて大学まで行っていたと書いていたのを読んだ気がして、この道を通ったんではないかと思った。
適当に道を変えながら行くとコクーンタワーが見えた。新宿も近いなと思ったけどそれほど近くはなかった。
高田馬場駅から新大久保方面に坂を上っていくとビルの地下にとんかつ屋がある。休日の朝に美味しいから食べに行こうと友人から電話がきて出かけていくと店の前には行列が出来ており、すでに友人は行列の中ほどにいて、お前も早く並べと列の後方を指さすので私はなぜ呼ばれたんだろうかと思った記憶があったが、その日はぜんぜん並んでいなかった。休みだったのかもしれない。
結局山手線に沿って歩いているだけではないかと、自分の退屈さに落胆しながら公園の前を通りがかると、野球をやっている人たちがいた。よく見るとクリケットだった。とっさに「クリケット」が出てくるなんて、自分は物知りだと思った。誰かと歩いていたら「クリケットをやってる人がいるね」と言えただろう。
投げ手の人は、長い助走をつけてボールを投げていた。本格的なフォームに見えたが、クリケットを愛する国では誰でも出来ることなんだろうか。

13時を過ぎても行列が出来ている店はどこもかしこもラーメン屋のようだった。
『龍の家』というラーメン屋の前を通りかかったときのことだ。
やはり行列が出来ていて、前に来たことがあるような気がした。めったに歩かない道を歩いてきたので、どの辺にいるのかよくわからなかった。周囲を気にしながら歩いていると、もう新宿駅のすぐ近くだとわかった。場所がどこだかわかった瞬間になじみが出てきた。一時期よく来た場所だとわかった。麵通団に行ったり、公園で漫才の練習をしてる人を横目にタバコを吸ったり、一人でヤングインに泊まったりしたのではなかったか。
いつかの思い出とともに、すべての路地が明確になる。不意にやってきた懐かしさほど良いものはないと思った。