悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

読書家たち

    本を読むのが好きで、同じような趣味の友達がほしかった。まわりに本を読む人がいなかったというわけではない。


    Rくんという同級生がいて、Rくんは読書家で有名だった。小学校のときに転校してきて、髪の毛が長く、長髪の男の子はクラスにいなかったものだから長髪の男の子としてみんなに認知されたのだけど、しばらくしたら突然坊主頭になった。日が経つと髪は伸びてきて、野性的な長髪に戻った。すると突然坊主になり、伸びて毛先が広がったメタルバンドのギタリストみたいになった思うとまた坊主、長髪、坊主というのを中学校卒業まで続けた。しかし、Rくんは長髪の人でも坊主の人でもなかった。なにより読書の人だった。夏休み明けになると、夏休みの思い出を新聞記事にするというのがあり、彼はいつも夏休みで100冊本を読みましたと書いていたような気がするし、えらく角ばった本を読んでいると思ったら、六法全書だよなどと言うし、学年で唯一、みんなから読書家と思われていたのが彼だったのではないかとも思う。学校の委員会はとうぜんのように図書委員だった。彼のクラスでは年度の始めに行われる委員会決めのとき、彼の他に図書委員に立候補する人はいなかった。小説なども書いていたのだろうか、あまり接点がなかったので定かではない。噂できいたかもしれない。感じの悪い男の子が広めたのではなかったか。彼は小さなノートに熱心になにかを書いていた。ノートは廊下に落ちていた。中身をみたかもしれない。なにが書いてあったか。


    色白で痩せていた彼は運動とは無縁のようだった。それでも中学生になると、運動部に入った。文化系の部活がなかったからもしれない。なんにしろ、妙に黒々した顔していた時期があった記憶があるけれど、いつのまにか色白に戻っていたのをみて辞めたのかなと思うと、たしかに辞めていた。中学二年生のときだったと思う。教室のすみで思い詰めたような顔をした彼の顔を覚えている。顔は白かった。
一度、本を貸したことがあった。休み時間に本を読んでいると貸してくれと言われたので貸した。次の日くらいには返してもらったと思う。彼は本を読むのが早かった。バーティミアスという児童書だったと思う。彼から本を貸してもらったこともあった。几帳面に透明なブックカバーをつけていて、ずいぶん丁寧に本を扱っていたようだった。汚したりしたらまずいと思ってちっとも内容が頭に入ってこず、その後は借りたりしなかった。貸しもしなかった。
こまごまとした出来事がたくさん思い出される。よく見ていたのだろうか。たいして話したりはしなかった。中学校を卒業してからのことはしらない。

 

 

バーティミアス (1) サマルカンドの秘宝

バーティミアス (1) サマルカンドの秘宝