悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

2022/02/02

味噌汁をこぼしてしまった。
敷居のところが濡れてしまい、拭いたけれど、湿ったせいか引き戸の締まりが悪くなった。
夕飯を食べ終えて温かいお茶でも飲みながら、本でも読もうと思い、黒豆茶を淹れた。ティーバッグを取り出そうとした時、お茶をこぼしてしまった。まただ、と思った。すごい不運に見舞われているような気になり、落ち込んだ。
いったいなんでなんだろうか、とつい考えてしまう。
本当は理由なんてないことでも、思い返してみれば、思い当たるフシは出てきてしまう。
何日か前から、左足の薬指が腫れているのだった。
通勤用の靴を変えたことが原因のようだった。
小指の外側も少し赤くなっている。1日のうちに何度か違和感を思い出して、気が滅入る。
庇って歩いている時もあるかもしれない。そのせいで、何かしらバランスを崩しているのではないか。
そう思うと、気になって仕方がない。つい左足の薬指の関節に意識が向いてしまう。すると、前より腫れてきているような気さえする。

このところ、寝る前にストレッチをしている。今年の冬はあまりにも寒いような気がしていて、冷え性を治す努力をしようと思ったのだ。
身体が硬いと血流が悪くなるらしく、youtubeで解説動画を見ながら太ももを柔らかくしている。解説の人は、伸びている箇所を意識した方が効果があると言っている。中学校の頃の部活の先生は、筋トレをするときは使っている箇所に触れながらやったほうがいいと言っていた。本当かどうかは知らないが、なんとなく説得力があるような気がしている。
では痛みはどうだろう。

まあ、よくわからないけど。前屈をしながら、腫れた指先を眺めていたら、小学生の頃、痛みに集中することで症状を悪化させようとしていたことを思い出した。
かすかにお腹が痛いような気がする朝。あるいは少し熱があるような朝。その違和感を失わないように意識を向ける。他のことに気が散らされないように、目を閉じて、すでに曖昧になってしまった微かな感覚を再現しようと試みる。違和感を感じた場所に意識を集中し、繰り返し思い出しは体に定着させようと試みる。
しばらくすると、痛みや違和感の感覚は遠ざかり、気のせいであったと認めざるを得ない状態になるのだが、こんなに努力したのだから、休んだって構わないはずだと、妙に居直ったりして、ズル休みをしていたのだった。