悪い慰め

感傷癖から抜け出すためのレッスン

2022/06/02

少し前のこと。最強どん兵衛というのがあるらしいときいてコンビニへ行ったが売っていなかった。
私はカップ麺のなかでは、どん兵衛のそばがいちばん好きだ。いや、緑のたぬきかもしれない。
中学生のころ、部活を引退して早く家に帰るようになるとなんだか空腹でたまらずカップ麺のそばを毎日のように食べていた。すると高校に入学してすぐのクラス写真に、ふくふくとしてあまりにかわいらしい自分が写っていたのでショックを受けたのを覚えている。その時、これ以上ふくふくしたら私がたぬきになっちゃうなと思った気がするので、私が好きなのは緑のたぬきだと思うけど、実際は両者の違いがわからない。わからないというか、食べ比べたりしない。比べることの厳密さに恐れをなして、違いに気付かないふりをする。

野比のび太は、たまたま手にした1000円でカップラーメンを10個買って一気に食べるという夢を叶えていた。私はそういう愚かな夢を実現せずに来てしまった。そのせいで退屈な大人になったのかもしれない、などと思いつき嫌な気持ちになる。

ここしばらくはコンビニへ行くたびに、カップ麺コーナーをのぞいている。しかし最強どん兵衛はどこにも置いていなかった。スーパーにもない。帰り道に、わざわざすこし遠いコンビニへ行ってもなかった。

このあたりでは、売ってないのかもしれないとなかば諦めつつ、それでもスーパーやコンビニへ行くたび律儀にあるかどうかチェックをしていた。

一週間くらい経ち、これはもはや趣味だなと思った。
私は最強どん兵衛を探すことを楽しんでいる。没頭している。
あるかなという期待感を持ちつつ、あまり立ち寄らないコンビニへ行く。しだいにコンビニのささやかな違いにも目がいくようになる。

発売したばかりのゲームをもとめて、親と一緒にゲーム屋やおもちゃ屋をはしごしたことを思い出す。

学生時代にコンビニでバイトをしていたとき、一番くじの発売日に日付が変わるとともに現れた客が全部買い占めていって、その後夜中の2時頃に小さな子どもとその親がとぼとぼとやってきて「一番くじはありますか」などときかれたので、私はなんてひどいことをしてしまったのだろうあんな転売屋に売ってしまうなんてとひどく後悔をしたのだけど、あの子もいずれ、その夜のことをふとしたきっかけで思い出すのかもしれない。

そして今日。私はとうとう最強どん兵衛をみつけた。県をまたいだローソンにあった。そばとうどんがあり、それらのパッケージは光っていた。本当にキラキラと輝いていたのだ。私は手にとり、どちらを買うか悩んだ。ひとつ300円くらいした。両方とも買うのは高いような気がした。悩んでいると、なんだか悩んでいることがめんどうに思えてきてどちらも買うのをやめてしまった。ヤクルト1000が2本売っていたので1本買った。